この度、近代映画社から『字幕で味わう映画の名せりふ』（スクリーン新書、1,100円（税込））が出版されました。元京都外国語大学･京都外国語短期大学教授の藤枝善之氏が監修･編著にあたった。本学の経済情報学部寶壺貴之教授（映画英語アカデミー学会長）ら10名も執筆に加わっている。今回は、特に寶壺教授に執筆にあたって意図したことや配慮した点を伺った。

今回執筆されたのはどの作品ですか

　私は特に、トム･クルーズ主演『ラストサムライ』（03年）と『アンドリューNDR114』（99年）を中心に担当させていただきました。

洋画ファンを魅了した主人公の名せりふを取りあげたとのことですが、映画『ラストサムライ』では、どんな味わいどころがありますか

　ハリウッド映画の中には、昔から日本のサムライ・スピリットを描いたものが多くあり ます。「サムライ・ジャパン」等に代表されるように、今でも欧米で活躍する日本の男性 が「サムライ」と称され「大和魂」に注目が集まっています。

　また、多くの映画がハリウ ッド的なイメージでサムライを描いていますが、本作品は、サムライ・スピリットにハリウッドが真っ向から取り組んだ記念碑的作品です。この映画では、日本の西欧化というよ うな「歴史」を学ぶ以上に、武士道精神を基軸にしたひとりの人間の精神がどのように変わり成長を遂げていくのかが描かれています。

著書には帯がついていますが

　共著の帯には戸田奈津子氏の推薦の言葉が述べられています。今回戸田先生から推薦の言葉をいただけて、本当に感謝しています。

洋画を楽しむ方に一言お願いいたします

　私は、本学のYawaragi Basis科目の｢映画学｣を担当させていただいています。そして、洋画を観るとき私たちは  ＂字幕＂に頼りますが、その字幕はプロの字幕翻訳者が腕によりをかけ、知恵を絞って翻訳したものです。 限られた字数の中で、意味を伝えるだけでなく、映画の流れや場面に合わせた言葉を使って、作品をさらに理解しやすくしてくれているのです。 そんな字幕翻訳者の ＂技＂ と ＂工夫＂ で創り出された名文句・名せりふをご堪能ください。

監修の藤枝先生の思いをお伝えください

　藤枝先生は、｢初の字幕スーパーが世に現れてから、今年でちょうど90年です。 記念すべきこの年に本書を上梓できるのは、字幕を愛する洋画ファンとして望外の喜びです。その間に生まれた無数の名せりふ・名字幕を備えた作品の中から、本書では、英語圏の30の映画をストーリーと共に紹介します。 あわせて、要所要所の場面に挿入された日本語字幕を正確に引用しながら、字幕翻訳者の 技と努力の跡をたどり、名字幕の作者に心からリスペクトを捧げたいと思います。｣とおっしゃっています。

字幕翻訳には様々な制限があるそうですが

　字幕には｢1行13文字、最大2行｣、｢人間が目で追えるのは1秒4文字以内｣などの制限があります。｢ラスト サムライ｣ の中のせりふに｢運命の導く道は皮肉なものだ｣の一節があります。直訳すると｢人生の皮肉に悩まされている｣となりますが、重厚でありながらスッと受け入れられる字幕に仕上げてあります。

　様々な制限の中で日本語に置き換えてきた字幕翻訳者たち。寶壺教授は、｢その翻訳術を学び、英語学習に役立てて欲しい｣と締めくくりました。

※2022年6月23日（木）　読売新聞24面掲載

※参照　● 編著：藤枝善之 ● 新書判（115×173mm） ● 216ページ ● 販売価格　1,000円 ＋税 ● 2022年4月13日（水）発売 　【目次】 はじめに　  第1章 恋人たちの時間 　『カサブランカ』『お熱いのがお好き』『ザ・エージェント』 　『タイタニック』 『ジョー・ブラックをよろしく』 『25年目のキス』 『ビフォア・サンセット』 『ホリデイ』 『ロマンティックじゃない？』   第2章 闘いの詩 　『ベスト・キッド』 『ウォール街』 『マトリックス リローデッド』 『ラスト サムライ』 　『パイレーツ・オブ・カリビアン／ワールド・エンド』 『マイティ・ソー』 『ホビット 思いがけない冒険』 　 第3章 音楽の愉しみ 　『マイ・フェア・レディ』 　『海の上のピアニスト』 『スクール・オブ・ロック』 『Ray／レイ』 『ボヘミアン・ラプソディ』   第4章 人生の光と影 　『デーヴ』 『アンドリューNDR114』 　『デンジャラス・ビューティー2』 『フリーダム・ライターズ』 『幸せへのキセキ』 『42世界を変えた男』 『ボブという名の猫 幸せのハイタッチ』 『ワタシが私を見つけるまで』 『グリーンブック』　  おわりに