「デジタルトランスフォーメーション(DX)推進センターキックオフシンポジウム」開催!

2022.12.1

DXへの第一歩に向け、

さまざまな業界の現在地を知る。


2022年4月1日、岐阜聖徳学園大学は「デジタルトランスフォーメーション(DX)推進センター」(以下、「DX推進センター」という。)を設立しました。
DXとはアナログ情報をデジタル情報に変換(デジタイゼーション)し、仕事のプロセスやモデル、組織構造の深部にまでデジタル技術を取り入れるなどして(デジタライゼーション)、新しい社会のモデル、組織のモデル、生活モデルを創出し、私たちの生活や社会そのものをよりよく変革させること。(DX推進センター センター長挨拶より
近年、企業やビジネスの現場ではDXという言葉をよく耳にするようになりましたが教育やアカデミアの現場ではまだまだなじみがないのが現状です。本学は、そんなDXを推進する地域インフルエンサーとして、大学内はもちろん、地域のさまざまな分野でDXを実現するためのシンクタンクとなることを目指しています。
今回はキックオフシンポジウムということで、省庁、行政、企業という異なる業界におけるDXの取組みについて、それぞれの立場からお話をしていただきました。


次代を担う、

DXの先駆者になるには?

2022年9月10日(土)、会場となった岐阜聖徳学園大学羽島キャンパスには、本学の学生やDXに関心のある行政や企業関係者など約50人が足を運びました。

さらに今回のイベントは、Youtubeでのライブ配信も実施。オンラインでも約100人が視聴し、DXに対する注目度の高さが窺えました。


会場の席がおおよそ埋まった14時、定刻とおりイベントは開始。

まずは観山正見(みやましょうけん)学長のあいさつからスタートし、DX推進センターが設立された経緯を説明するとともに、「日本のDXは遅れているとも言われていますが、これから社会に出ていく人には、ぜひDXの先駆者になってほしい」というメッセージが伝えられました。


その言葉を体現する取組みとして、本学では今秋からすべての学生が「数理・データサイエンス・AI教育」に関する授業を履修することになっています。

続いてはDX推進センター長の芳賀高洋(はがたかひろ)氏から、本シンポジウムの概要説明がありました。


ここでは事前にプログラムしたキャラクターが、芳賀センター長に代わって説明をしてくれました。

DX推進センターのキックオフシンポジウムらしい一場面でした。

芳賀センター長は今回のイベントの登壇者を紹介し、

「よりよい社会を作るために、社会をどう変革するのか、そのためにどのようにデジタル技術を活用するかが重要です」

と参加者に投げかけながら、各登壇者の基調講演へとつなげました。

教育DXの取り組み

浅野 大介 氏

[あさの・だいすけ]
経済産業省 経済産業政策局 産業資金課長(兼)投資機構室長(兼)大臣官房Web.3.0政策推進室長


1人目の登壇者は、経済産業政策局で「GIGAスクール構想」を推進してきた浅野氏。「GIGAスクール構想」とは、児童生徒1人1端末の配付やネットワークの整備によって教育のICT化を進めていく国の取組みです。当初は4年かけて進める予定でしたが、コロナ禍により1年での導入となり、現在「教育DX」の基盤は急速に整備されています。

「一気に進んだことで現場は混乱もあったかと思いますが、結果的に“とにかく一度取り組もう”と関係者が腹を括りました。10年かけていては、こうした変革は起こらなかったと思います」

浅野氏が「GIGAスクール構想」によって進めたいと考えたのは、「学び方」のフレームを変えること。

「従来は、授業をどれくらい聞いていたかが評価されていましたが、教育として大切なのは、子どもたちに学び取って欲しい資質や能力が何なのか、ということ。その学び方は、人によってさまざまでもいいはずです」


教育DXを推進することで、「リアルタイム」「オンデマンド(いつでも)」「対面」「オンラインという4つの学び方の組み合わせが自在となり、より一人一人にあった学び方を実現できるようになる、と浅野氏。例えば1回の授業で理解できなくても「オンデマンド」と「オンライン」で自分に適した方法で学び直すことができます。

端末の導入などは、DX(組織やビジネスモデルそのもののデジタル化による変革)とは言えないものの、デジタライゼーション(業務のプロセス全体のデジタル化)によって学校の構造がガラリと変わり、ある意味ではDXが進んだと言える、と浅野氏は語ります。

デジタル基盤の整備により実現されるのは、自分が疑問に思ったことを起点に学びを自ら深堀りしていく「学びの探求化・※STEAM化」です。

先行き不透明な現代社会では、単一の教科をそれだけで完結して学ぶのではなく、さまざまな教科を掛け算することで、社会課題を解決すること、学びを再構築することが重要です。しかし、こうした教育を実現するには、教育現場にいる教員だけでは、知識も経験も時間も十分ではありません。そこで、デジタルを活用することが重要となるのです。その分野の専門家や、現場で活躍する人から話を聞き、学ぶことが、デジタルの導入によって容易になりました。浅野氏にはその具体的な事例や、経産省が提供する「STEAMライブラリー」というSTEAM化を支援する取組みについても紹介していただきました

「“一人一人が学ぶことができているか”を重要視することが今後の教育には必要となっていきます。そのためにデジタルの活用は必要不可欠です」

浅野氏の熱がこもった言葉で、講演は終了しました。

※Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Arts(人文社会・芸術・デザイン)、Mathematics(数学)の頭文字をとったもの

岐阜市におけるDXの取り組み

速水 清孝 氏

[はやみず・きよたか]
岐阜市役所 行政部デジタル戦略参与


続いては、2019年4月に民間IT企業から岐阜市役所に入庁した速水氏から、岐阜市のDXの取組みについてご紹介いただきました。

岐阜市では「スマート自治体」を目指し2020年に「岐阜市ICT推進計画」を策定。手続きのデジタル化やAIチャットボットによる市民サービスの向上、ペーパーレス会議やAI会議録の導入などによる職員の業務の効率化を図り、さらにコロナ禍においてはテレワークを導入するなど、働き方改革も進めてきました。

2021年5月に完成した新庁舎では、ワンストップの総合窓口サービスの設置やキャッシュレス決済も開始し、市民の利便性の向上を図っています。


こうした取組みを進めながらも、速水氏は「まだDXには至っていない」と語ります。

「現在はデジタル機器やシステム導入などの“デジタイゼーション”の段階で、まだ“デジタルを活用して仕事のやり方を根本から変える”までには至っていない状態です。一方で、行政は法律に基づいて仕事をしていて、そもそも根本から仕事を変えるとは何なのか、ゴールが明確に示しにくくもあります」

こうした状況を踏まえながら

「岐阜市としては、ちょっとした変革もDXと捉えてやっていこう、そのためにまずはデジタル化を進めていこうとしています」

速水氏。DXの進行には、まずは小さな一歩を踏み出すことが大切だと説きました。


2022年には「岐阜市ICT推進計画」を継承・発展させた「岐阜市DX推進計画」を策定。その他にも、ビックデータの活用や職員のDXに対する意識改革、地域社会でのDXの推進についても触れ、

自治体だけでなくさまざまな分野でDXを進めることが、市民生活がよりよくなり、地域経済が活性化し、社会のあらゆる課題を解決する糸口になり、ひいては岐阜市を未来へ動かしていくのではと考えています」

と話を締めくくりました。

デジタルが苦手な会社のDXの現在地

河合 利夫 氏

[かわい・としお]
株式会社トヨタオートモールクリエイト代表取締役


最後の登壇者は、本学の学生や教員にもおなじみのショッピングモール「カラフルタウン岐阜」の運営に携わる河合氏。カラフルタウン岐阜((株)トヨタオートモールクリエイト)と本学は包括的連携協定を結んでおり、幅広い分野で協力した取組みを展開しています。

ここまで2人の登壇者は、それぞれ専門的な知見からの講話でしたが、河合氏からは少し異なる視点で話をしていただきました。

「私はDXやデジタルの専門家ではないので、“デジタルが苦手な社長がいる会社のDXの現在地”について率直なところをお話できればと思います」というあいさつからスタートしました。


ネットで何でも購入できてしまう現代におけるショッピングモールの意義は、リアルでの買い物を楽しんでもらうことです。さまざまなテナントが入る「カラフルタウン岐阜」は、各店舗に多くの顧客が訪れ、購買につながってこそ発展していきます。

そんな前提を踏まえ、河合氏はショッピングモールがDXで行うべきこととして「自社・テナントの業務効率・生産性をあげること」「テナントの負担を減らすこと」、それによって「多くのお客様にリアルでの買い物を楽しんでもらうこと」を挙げました。

具体的な実例としては、自社のリモート環境やeラーニングの整備、テナント向けのグループウェアの導入やWEBでの研修の実施について紹介されました。


また、テナントの業務効率を上げるための特徴的な取組みとして、カラフルタウン岐阜の来訪者が、自動車購入に至るまでの段階別のアプローチについて、説明いただきました。

例えば、店舗前に人流センサーを設置してディスプレイ方法を検証したり、展示車の前で好みの自動車を把握するWEBアンケートを実施する等さまざまな方法でデータを収集し、それに基づいた取組みを試みることで、お客様の興味や関心に基づいた購買につながるようにしています。

「最後に、DXが苦手な立場からの開き直った発言になってしまいますが、これからDXを推進していく学生の皆さまへ一言。一つは、決してDX自体が偉いわけではないということ。なぜDXを進めるのか、その手段と目的を間違えないようにしてください。そして、あなたにとっての常識は、必ずしも世界の常識ではありません。DXを理解できない人を卑下するのでなく、人を救うためにDXを推進してほしいです」

DXを推進している人にも、これから学んでいく人にとっても、心に留めておきたい言葉とともに、講演は終了しました。

座談会

ーDX推進のそもそもの

目的や目指すところは?

基調講演が終わると、芳賀センター長の進行により、登壇者3名と観山学長による座談会がスタートしました。


観山学長 浅野さんが仰っていた『総合的な探究』はこれから重要になっていく教育だと思いますが、誰がどのように教えていくといいでしょう?本学には教員を目指す学生も多いですが、どのように教員を育てるべきでしょうか? 

浅野氏 先生自身も探究した経験がないと難しいですよね。例えば、自分の関心のある分野について論文を1本書いてみるとか。学校では技術家庭科の授業がありますが、他の教科に繋がるメッセージがあって非常におもしろいんです。でも先生自身がそれを受け取れていないと、子どもにも伝えられないですよね。DXはそもそもめんどくさい作業をまとめて、世の中を便利にすることが目的です。カラフルタウン岐阜の取組みも、顧客を理解したい、こういう行動を取ってほしいという目的があって、そのためにどうデータをとるか、人員をかけずにやるかを突き詰めていくことだと思うんです。こうした抽象化と具体化の行ったり来たりがDXの本質で、教育現場でもそれを理解していないと中途半端になってしまうと思います」


芳賀センター長 カラフルタウン岐阜には近隣の児童や生徒が見学に訪れますが、どうしても“働いてくれる人に感謝しましょう”という視点になりがちです。それももちろん大切ですが、どうやってショッピングモールを活性化させるか、人が来る仕組みを作るかを考えてもらってもいいのではないでしょうか。

河合氏 岐阜聖徳学園大学でも、プレゼンの授業の時にそういった発表をしてもらっていて、興味深く聞かせてもらっています。


観山学長 大学は教育機関でありながらも事務的な組織でもあり、どこでも仕事ができる仕組みづくりを進める必要があると考えています。速水さんは岐阜市役所のDX化を一気に進めたのでしょうか。

速水氏 一気にできることとできないことがあります。行政は税金を使う以上効果が確認できないとコストがかけられない。ですが一方で、やってみないと効果が分からないことがほとんどです。DXやデジタル化を進める中では、もちろんミスや不備も起こりますが、そういった負の側面を認めながら進めることが重要で、これまでの常識に捉われない考え方に変えていくことが必要です。マインドを変えていくことで、例えば職場にいないと決裁ができなかったのが、出張中でも確認できて待つ時間を短縮できれば、働き方が変わってきますよね。


観山学長 自動車の運行情報を集めて、渋滞情報をリアルタイムで示すことはできないのでしょうか?どの道路を通るといいかを分かりやすくカーナビで出してもらえるといいのですが。

河合氏 ここ10〜20年くらいで、かなり進んではいます。例えば、道路情報や車のコンディションの把握、それらを分析した情報提供をしてはいるんですが、なかなかPRが進んでないかもしれません。通信料は誰が負担するかといった課題もありますね。


河合氏 妻が教員をしていますが、コロナ禍で一気にデジタル化が進んでGIGAスクール構想の成果を実感をしています。タブレットの使い方などは、生徒が教員をどんどん追い越していて、今後子どもたちがデジタルを活用してどんなことを実現していくのか楽しみですね。

浅野氏 正にそこが狙いで、学習者が主導権を持つことが大切だと考えています。アクセシビリティの格差をできるだけ抑えて、自分が学びたいものを学びたいだけ学べるようにするために、デジタルを取り入れる必要があるんです。

この他にも、さまざまな角度からDXに関する話題提供があった後、3人の登壇者から締めの言葉をいただきました。

浅野氏 そもそも何をしたいのかを突きつめることが大切だと思います。その成果に最短で持っていく手段として、DXを活用していく視点が重要ではないでしょうか。

速水氏 情報を見極める力をつけてください。データの真偽を選別できるようになることで、デジタルを活用する力がついていきます。

河合氏 私たちのようなショッピングモールとしては、個性をどう打ち出すか、差別化をどう図るかがこれからより肝要になっていきます。そのためにビックデータをはじめとするデジタルを活用していきたいです。


最後に、観山学長からも本学がDXを推進するにあたってのメッセージをいただきました。

「DXは主として効率化を進めていく手段となりますが、大学としては、DXによって短縮できた時間をどう活用するかを考える必要があります。本学の建学の精神は『和をもって貴としとなす』ですので、学生同士、学生と教員という人と人との意思疎通とデジタル化とのバランスをとりながら、人間形成を図ることを本学が今後進めていくべきことだと思います」

省庁、行政、企業という三者三様の立場から、DXについて現状や展望、心構えを学ぶことができた今回のキックオフシンポジウム。今後、本学では3人のお話も踏まえながら、教員、学生、そして地域の方々とともに、DX推進センターとしての取組みを進めていきますので、どうぞご期待ください!

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