TEACHER Interview 06 水川 和彦さん

2020.8.19

自分なりの教師観を持ち、

子ども一人一人と向き合う先生に。




教育学部教授

水川 和彦 さん

[みずかわ・かずひこ]

岐阜県飛騨市出身。新潟大学教育学部を卒業後、岐阜県内の小中学校で教諭を務めるほか、岐阜県の教育事務所や教育委員会に在籍して教員養成や人事などにも携わる。県下初の義務教育学校「白川郷学園」の初代校長を経て、2019年4月より本学に赴任。


自分の未来をつくるために

子どもたちは学校へ来ている
 

ー先生になられたきっかけを教えていただけますか。

実は、素晴らしい恩師との出会いがあって先生を目指したというようなエピソードはないんですよ(笑)。私が生まれ育った(現)飛騨市は地方だったため、就職先があまりなく、大学卒業後に地元に戻っても働けるような仕事に就きたいと教師を選んだんです。

ーなるほど。そうだったんですね。

でも、先生になるなら、子どもたちがドキドキワクワクするような授業をしたいと思っていました。私自身も、たとえば理科の授業でただ教科書に書かれたことをノートにきれいに書き写すことは楽しくなかったけれど、家から学校にニジマスを持参して解剖したときはすごく面白かった。学校はもっと、子どもたちがワクワクするような授業ができるんじゃないか、と思っていたんです。

ー大学卒業後に岐阜に戻って先生をされたのでしょうか。

はい。岐阜県内の小中学校から始まって、研修校や僻地校などでも教壇に立ち、そのほかにもトータルで10年ほど、岐阜県の教育事務所や岐阜県教育委員会で教員養成や人事に携わっていました。そのため、一人の先生という立場だけでなく、行政や管理者の立場からも、岐阜県の教育のしくみ全体を見てきたことになります。

ーとても幅広いキャリアを経験されたんですね。

さらに、定年退職前の最後の2年間は白川村で、岐阜県で初めて開校した義務教育学校「白川郷学園」の初代校長を務めました。義務教育学校は小学校と中学校の6・3制ではなく、9年間で一貫して教育課程を完成させられるため、“中1ギャップ” のようなことが起こりにくく、たとえば9年間を4・2・3年で編成することもできるなど、自由度も高いんです。


ーまさに学校教育の新しいあり方に挑戦できる仕組みですね。

私は白川郷学園で「村民学」という授業をプロデュースしました。いわゆる「総合学習の時間」ですが、子どもたちは自分の村について、知っているようで知らないことがたくさんある。たとえば、白川郷はなぜ茅葺なのか、玄関が南向きではなく東か西向きなのはどうしてか。そうした自分の身の回りにある事実を知ることはとても大切で、面白い。しかも、その事実には人の生き方が深く関係しています。地域を教材化して、人の生き方について学ぶことで、子どもたちは“自分の生き方”も見えてくる。

ーお話を伺っているだけでワクワクします!

子どもたちは“自分の未来をつくる”ために学校に来ているんです。みんな違う未来を持つ子どもたちの一人ひとりに力をつけてあげるのが先生の役割です。だからこそ、先生という仕事は崇高であり、大変だけれどやりがいがあるのだと思います。


確固たる教師観を持って

先生になってほしい


ー本学ではどういった授業をされているのでしょうか。

1年生の「教師論」の授業では、まずオリエンテーションで全員に幼稚園から高校までの担任の先生の名前を書いてもらうんです。すると、あまり書けない子もすらすらと書ける子もいるわけですが、覚えている先生というのは、優しかったとか、厳しかったとか、面倒見が良かったとか、何かしらのインパクトがあったということに気づきます。つまり、人生を変えてくれた先生や、心に残る景色を見せてくれた先生こそ記憶に残るんだといった話から始まり、1年間かけて「教師とは何か」ということを伝えています。

ーとても興味深い、哲学的な授業ですね。

大学の4年間をかけて「学生」は「先生」になっていく。その切り替えの入り口となる授業です。また、4年生では教師の哲学について話す「教師道」の授業を行なっています。これは必須科目ではないんですが、4年生250名ほどのうち220名が受けてくれています。


ー「教師道」ではどんなお話をされているんですか。

たとえば、学級の中で仲間外れがあると、先生は仲間外れにされた生徒に声をかけて深く関わります。そこで他の生徒に「先生はあの子ばかり贔屓(ひいき)している」と言われたときに、「先生は贔屓をしていない。みんなに平等に接している」と答えるのが一般的ですよね。でも、僕は「贔屓をしてるよ」と答えるんです。

ー何故ですか?

「(仲間外れにされた)あの子は先生が話しかけなかったら今日一日、学校で、誰とも話さずに帰っていた。だから、先生が贔屓をして話しかけるんだよ」と言うと、生徒たちはハッと思い当たります。そこで「先生が贔屓をしなくてもよくなるには、どうしたらいい?みんながあの子と話していたら、先生は贔屓しなくてもよくなるよね」と伝えるんです。

ー生徒たちは納得すると同時に、自分がしていたことに気づくんですね。

それが僕の教師としての考え方で、それこそが教育だと思う、と「教師道」の授業ではそんな話を学生にしています。

ー水川先生のお話を伺っていると、目から鱗が落ちる思いがします。きっと学生たちにとっても、示唆に富んでいて、将来の糧となる授業なのでしょう。

学生たちには、確固たる教師観を持って先生になってほしい。教師としての信念や哲学を持ち、それを自分の言葉で伝えられるようになってもらいたいと思っています。



ぎふチャン特別授業に

校長先生役で出演


ー新型コロナウイルスの影響による学校の休校を受け、2020年3月から放送された番組「ぎふチャン特別授業」に校長先生として出演されましたね。

はい。3月30日にOAされた第1回と、4月29日にOAされた第2回は、家での過ごし方に悩んでいる子どもやその家族に向けて、家庭でも楽しくできる“学び”や“運動”を授業形式で放送しました。5月29日にOAされた第3回は、学校再開を受けて、家庭と学校での過ごし方や「学校生活の新ルール」について授業を行いました。


ー「ぎふチャン特別授業」を終えて、学校教育についてどんなことを感じていらっしゃいますか。

今回の学校の長期休校で、みんなが学校の役割を再認識できたのだと思います。学校は勉強する場所であると同時に、子どもたちにとって社会でもある。自宅で悶々として「外に出たい」「学校で友達に会いたい」と願う子どもたちの様子を見て、学校とは社会や人間そのものを学ぶ場でもあるのだとはっきりと認識することができました。

ー確かにコロナによる長期休校は、学校が果たす役割について人々が深く考えるきっかけとなりました。

結果的に子どもたちは3ヶ月間を自宅で自由に過ごせたわけですが、夏休みなどのように事前に準備された課題が与えられていない中で、自分で課題を見つけて勉強する力、つまり、時間割を作る力が弱いことを感じました。たとえば、①すらすらとできる計算ドリル、②じっくり取り組まないといけない苦手な文章題、③やってみたいと思っていた昆虫の研究、というように3種類の勉強の違いを見極め、自分なりの時間割を組み立てられるように力をつけさせることも大切だと感じました。

ーこれから先生になる学生たちに伝えたいことはありますか。

子どもたちは学校に自分の未来の礎(いしずえ)を磨くために来ています。一人の生徒が「電車の運転手になりたい」と言ったとき、ただ「頑張れ」と応援するのではなく、「じゃぁ、未来はどんな乗り物があるだろう、未来の運転手ってどんな仕事だろう」と聞いたり、一緒に考えたりできる先生であってほしいですね。そして、本学を卒業して10年後には、それぞれにその学校でなくてはならない先生になっていてもらいたいと思います。



[ぎふチャン特別授業] 


2020年3月からの学校の長期休校を受けて、ぎふチャンが独自に制作した番組「ぎふチャン特別授業」で校長先生役を務めました。3月30日、4月29日、5月29日の3回にわたって、子どもたちの家庭での過ごし方について、英語、国語、体育などの授業形式でカリキュラムを組み、アドバイスを送りました。


ー岐阜への想いー

岐阜県の教育はとても熱心で、先生も子どもたちのために一生懸命だという印象があります。クリエイティブというよりは保守的で、他県からは堅いと言われることもありますが、受け継がれてきた伝統を守る姿勢は素晴らしいと思います。
そういった土壌の中で、若い先生たちがまず先輩方から現場で基礎を学び、それから個性やバリエーションが生まれていけば良いと思います。

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