TEACHER Interview 08 藤田 哲也さん
2021.3.17岐阜の児童福祉の現場で活躍する
人材の育成に力を注ぎたい
短期大学部幼児教育学科 専任講師
藤田 哲也 さん
[ふじた・てつや]
岐阜県養老町出身。朝日大学法学部を卒業後、中津川市にある社会福祉法人カトリック名古屋教区報恩会の児童養護施設「麦の穂学園」に17年間勤務し、児童福祉の現場で子どもたちと向き合う。2020年4月、短期大学部幼児教育学科専任講師に就任。
子どもたちと深く関わった
児童養護施設での17年間
―まず、先生になろうと思われたきっかけを教えてください。
高校生のときの社会科の先生が生徒一人一人を丁寧に見てくださるとても良い方で、授業の進め方も面白くて、先生によってこんなに授業が違うんだ、と驚いたんです。その先生の引き出しの多さ、生徒に伝えようとする熱量のすごさを感じて、自分もこんな先生になりたいと高校教員を目指しました。
―大学では法学部に進まれたんですね。
はい。朝日大学の教職課程で中学の社会と高校の地理・歴史・公民の教員免許を取得しました。ところが、残念ながら教員になることは叶いませんでしたが、それでも子どもと関わる仕事がしたいと思ったときに中津川市にある児童養護施設「麦の穂学園」の存在を知り、職員として勤めることにしました。
―高校教諭と施設職員とでは、かなり違いがあったのではないですか。
そうですね。教員としてではなく、福祉の視点から子どもと関わることは初めてだったので、最初はとても驚きました。児童養護施設には3歳から18歳までの子どもが生活していて、朝起こすところから、就寝までともに生活しながら、父親やお兄さんのような役割を通して自立に向けて支援するわけなので、高校の教員とな全く違いました。
―子どもたちとの接し方、向き合い方がとても重要になりますね。
施設は子どもたちの『家』なので学校とは別の顔を見せたり、ほっとしたり、感情を出したりすることができる場所です。施設の子どもたちとは長ければ10年以上生活をともにしますが、子どもたちとの関係が深まれば深まるほど子どもが抱える深刻な問題にも直面します。でも、それも受け入れながら、子どもの心の「ゆれ」に寄り添い続けることが大切だと実感しました。
児童福祉の現場で活躍する
人材の育成を目指して
―本学で専任講師になられたのにはどういった経緯があったのでしょうか。
私が17年間勤めていた児童養護施設では、保育士養成校の学生や社会福祉士の実習を受け入れていて、私が実習の担当をしていましたので、少しずつ大学との繋がりも深まっていました。
―すでに本学の先生や学生とも長く交流があったんですね。
さらに、日本福祉大学大学院の通信課程で修士号を取得した後は、現場の仕事をしながら、非常勤として大学や短期大学で学生に児童福祉施設で生活する子どもや職員の様子を伝え続けてきました。児童福祉の現場では大変なことも多くありましたが、働き続けられたのは周りの方々の支えがあったからであり、私はこれまで岐阜県の児童福祉に育ててきてもらったと感謝しています。そこで、児童福祉施設で活躍する多くの人材の育成に携わること、その恩返しができるのではと思って、2020年4月に本学の専任講師になりました。
―現在、研究されている内容について教えていただけますか。
私はこれまで、経験に基づいて児童福祉の実践に生きるような研究をしてきました。児童福祉施設で生活する子どもの『良い先生』の具体像や、早期退職や離職が多い現場で、職員が仕事を続けられるために必要なことはないか、などの研究です。そして現在は、児童福祉施設における職員の確保・育成・定着をテーマとして研究しています。
―学生にはどういった授業をされているのでしょうか。
私が担当する科目は、社会的養護や保育実習指導などです。講義では自分の経験も交えて、児童福祉の実際を具体的に学びます。たとえば、「これまでの高校、中学校、小学校、保育園や幼稚園で、どんな先生が良い先生だったと思う?」と問いかけから始まり、施設で暮らす子どもたちは、「どんな大人に何を望んでいるのか」まで理解を深めていきます。
―学生にとっても自分が子どもだった頃を振り返る良い機会になりますね。
学生たちに自分の「生い立ち」を振り返りながら、アルバムを作ってもらったりもしましたよ。
―それは楽しそうです!
今後は、児童養護施設で生活をしていた経験者に講義をしてもらったり、施設に就職した私の教え子や学生に仕事や子どもとの関わりついて話してもらったり、施設職員と学生がお互いに学び合えるような授業も展開していけたらと思っています。
子どもと向き合うとは
自分自身と向き合うということ
―本学の学生にはどんな印象をお持ちですか。
すごく真面目で実習にも一生懸命に取り組む、意識の高い学生が多いという印象があります。何を取り組むにしても、ちゃんと気持ちを持っているというか。
―学生たちに伝えたいことはありますか。
子どもと関わるときに引き出しが多い学生は、関わりの幅も広がります。だから、いろいろ知って、学んで、体験してほしいと思います。学びには、無駄なことはありませんから、大学生活でもプライベートでも、趣味や特技を増やしたり、学生のうちにいろんなことに挑戦してもらいたいと思います。
―保育士を目指す学生には、どんな保育士になってもらいたいでしょうか。
私が長年の児童福祉の仕事を通して実感したのは、「子ども(人)と向き合う」=「自分自身と向き合う」ということです。だからこそ、まずは自分自身を理解する「自己覚知」が重要だと思います。人は、強さ(良さ)と弱さ(課題)の両方を持ち合わせています。そのどちらも自分であることをまずは認め、そして赦し、子どもとの向き合い方を考えられる保育者になってほしいと思います。例えば子どもに「かおをみておはなしをきこうね」と教えている自分自分にはできているのかな、と常に自分を振り返り、立ち止まって考えられることも大切だと思いますね。
―まず、自分自身を見つめることから始まるんですね。
自分の特性をきちんと理解していないと、子どもたちとも関わりきれません。自分自身を客観的に見つめられる自分を作り、子どもに寄り添える保育者であってほしいと思います。
[おいたちの整理]
学生は家族やまわりの人に当時の思い出などを聞いて文章にまとめながらおいたちを整理することで、そこに育ててくれた人のたくさんの想いや支えがあったことに気づきます。また、小さい頃の写真や記録が少ない子もいる児童養護施設では、子どものおいたちを整理していくうえでどんな配慮が必要か考える機会にもしています。
ー岐阜への想いー
岐阜県で生まれ育ち、働いておりましたので、住み慣れた岐阜でこれまでお世話になった方たちと、また一緒に仕事ができること、児童福祉施設の職員とは違う立場から児童福祉に携われることをとても嬉しく思っています。
これまで、私の講義がきっかけで施設に就職してくれた学生もいますので、今後も施設で活躍する人材の育成に貢献できればと思います。